「経理のことは、あの人に聞かないと分からない」。
請求書の発行も支払いも給与計算も、長年ひとりの担当者に任せきりで、もし急に辞めたら会社が回らないかもしれない。
そんな不安を感じながらも、日々の忙しさで手を付けられていないのではないでしょうか。

実は、経理の属人化は担当者の問題ではなく、仕組みの問題です。
だからこそ、担当者を代えなくても、仕組みを整えれば解消できます。

なぜなら、経理は毎月・毎年同じサイクルで繰り返される定型業務が中心で、書き出して手順化する「標準化」に最も向いた業務だからです。

ここでは、次の5つを順番に解説します。

  • 自社の危険度がわかる7つのチェックリスト
  • 放置すると起きる4つのリスク
  • 属人化を解消する5つのステップ
  • 担当者と気まずくならない伝え方
  • システムや外部サービスを使う判断基準

読み終えたときには、自社が何から手を付ければいいかが分かり、今週から最初の一歩を踏み出せるようになります。

経理の属人化とは?まず自社の危険度を確認しよう

経理の属人化とは、経理業務の手順や中身が特定の担当者にしか分からず、他の人が代われない状態のことです。

まずは言葉の意味を確認したうえで、自社がどの程度当てはまるのかを7つのチェックリストで確認していきましょう。

経理の属人化とは「その人にしか分からない」状態のこと

経理でいえば、請求書の発行、支払い、記帳、給与計算、月次や年次の決算対応といった業務が1人に集中し、そのやり方が本人の頭の中にしかない状態です。

誤解しやすいのですが、経理を1人に任せること自体が悪いわけではありません。
少人数の会社では、信頼できる人に任せるのが自然な形です。

問題は、任せた結果として次の2つの状態になっていることです。

  1. 代われない(本人がいないと業務が止まる)
  2. 見えない(何をどうやっているのか、誰も把握していない)

この反対が「標準化」です。
標準化とは、手順が文書になっていて、一定の引き継ぎをすれば他の人でも同じ品質で業務ができる状態を指します。
この記事のゴールは、担当者を代えることではなく、この標準化された状態に近づけることです。

自社の危険度がわかる7つのチェックリスト

次の7項目のうち、自社に当てはまるものがいくつあるか数えてみてください。

チェック1:請求書発行や支払いの手順を担当者以外は誰も説明できない

「どのタイミングで、何を使って、どういう手順でやっているか」を、経営者を含めて誰も説明できない状態です。
業務の中身が見えていない、属人化の最も基本的なサインです。

チェック2:経理担当者が1週間休むと止まる業務がある

インフルエンザや家庭の事情で1週間休んだ場面を想像してみてください。
請求書の発行、振込、給与計算のどれかが止まるなら、すでに会社の資金の流れが1人に依存しています。

チェック3:経理業務のマニュアル・手順書がない

手順書が1枚もない場合、業務のやり方はすべて担当者の記憶の中にあります。
引き継ぎは本人の説明だけが頼りになり、急な退職や病気には対応できません。

チェック4:経理のデータやファイルが担当者の個人PC・個人フォルダにある

ファイルの保存場所が個人のPCやフォルダだと、本人がいない間は誰もデータにたどり着けません。
どこに何があるか自体が属人化している状態です。

チェック5:担当者が自作したExcelファイルやマクロで業務が回っている

本人にしか構造が分からない自作のExcelやマクロは、便利な反面、属人化の温床になりやすいものです。
作った本人が辞めると、修正もトラブル対応もできなくなります。

チェック6:通帳・印鑑・ネットバンキングの操作を1人に任せきりにしている

お金の入出金を1人が握り、他の誰もチェックしていない状態です。
業務が止まるリスクに加えて、ミスや不正に気づけないリスクに直結します。

チェック7:経理業務の量や繁忙期を経営者が把握できていない

担当者がどれくらいの業務量を抱え、いつが忙しいのかを経営者が説明できない状態です。
業務の全体像が見えていないと、負担の偏りにも、改善の余地にも気づけません。

当てはまる数が3つ以上なら、属人化はすでに進んでいると考えてください。
また、数にかかわらずチェック2とチェック6に当てはまる場合は、資金の流れと管理体制に直結するため、優先して手を打つことをおすすめします。

経理の属人化を放置すると起きる4つのリスク

経理の属人化を放置すると、次の4つのリスクが大きくなっていきます。

  1. 担当者の退職・病気で経理業務が止まる
  2. 不正やミスがあっても気づけない
  3. 業務のやり方を改善できない
  4. 引き継ぎ・採用のハードルが上がり続ける

順番に見ていきましょう。

リスク1:担当者の退職・病気で経理業務が止まる

最も分かりやすく、最も痛いリスクです。
支払いが遅れれば取引先からの信用に関わり、給与の支払いが遅れれば従業員との信頼に関わります。

「うちの担当者は辞めない」と思っていても、病気や事故、家庭の事情は誰にでも起こります。
引き継ぎのないまま担当者が突然いなくなれば、残された社員は業務内容を把握できず、月末の支払いや請求、給与の振込が期限に間に合わなくなります。
そうなってから採用や引き継ぎを始めても、手遅れです。

リスク2:不正やミスがあっても気づけない

1人の担当者が入出金から記帳、チェックまですべてを担っていると、ミスや不正を発見する仕組みがそもそも存在しません。

これは担当者を疑うという話ではありません。
むしろ逆で、チェック体制がない状態は、誠実に働いている担当者にとっても「何かあったときに、あらぬ疑いをかけられかねない」不健全な環境です。
ダブルチェックの仕組みは、会社と担当者の両方を守るためのものです。

リスク3:業務のやり方を改善できない

業務の中身が見えないと、無駄があっても誰も気づけません。
「手作業で転記している」「同じ数字を3回入力している」といった非効率が、何年も温存されます。

システム導入やIT化を検討しようにも、現状の業務が分からなければ何も選べません。
そして業務量は会社の成長とともに増え続け、担当者の残業と負担だけが膨らんでいきます。

リスク4:引き継ぎ・採用のハードルが上がり続ける

属人化は時間が経つほど深刻になります。
その人独自のルールやファイルが年々積み上がり、引き継ぐべき内容が増え続けるからです。

いざ後任を探す段階になると、「マニュアルなし・独自ルールだらけの業務を、前任者の説明だけで引き継げる人」という厳しい条件になります。
ベテラン担当者の定年や退職はいつか必ず来るため、このリスクは放置するだけで確実に大きくなります。

経理が属人化する原因は「担当者」ではなく「仕組み」にある

ここまで読んで「うちの担当者が情報を抱え込んでいるからだ」と感じたかもしれません。
しかし、経理の属人化は担当者の性格や怠慢の問題ではなく、構造的にそうなる原因が揃っていることがほとんどです。

原因を正しく理解しておくと、担当者を責めずに仕組みの改善に集中できます。
主な原因は次の3つです。

原因1:専門性が高く他の人が口を出しにくい

経理には簿記や税務の知識が必要で、他の社員には中身が理解しにくい業務です。
「よく分からないから、全部お任せ」という状態が自然にでき上がり、誰もチェックも質問もしなくなります。
専門性の壁が、業務を見えなくする最初の原因です。

原因2:少人数経営では「任せきり」が最も効率的だった

従業員30名以下の会社で、経理の担当者は1人という体制はごく普通です。
信頼できる1人にすべて任せるのは、これまでは最も効率的で合理的な判断でした。

問題は、会社が成長して取引量が増え、「任せきりで大丈夫な規模」を超えたのに体制がそのままになっていることです。
属人化は経営判断の失敗ではなく、会社の成長に体制の見直しが追いついていないだけなのです。

原因3:手順が担当者の頭の中と個人ファイルにしかない

日々の業務に追われる中で、マニュアルを作る時間はどうしても後回しになります。
その結果、手順は担当者の頭の中に、データは個人のPCと自作のExcelに蓄積されていきます。

これは担当者の怠慢ではありません。
マニュアル作成の時間を業務として確保してこなかった、会社側の仕組みの問題です。
だからこそ、解消の責任も経営側にあります。

属人化は経理だけでなく営業でも起こります。
営業にも心当たりがある方は営業が属人化する原因と解消ポイントの解説記事も参考にしてみてください。

営業が属人化する原因とメリット・デメリット&解消するポイント5つ

営業が属人化する原因とメリット・デメリット&解消するポイント5つ

営業の属人化は顧客との強い関係が持てる一方で組織の不安定さに繋がります。属人化を解消するには情報共有の仕組みだけでなく人事評価制度の見直しなど文化醸成も大切です。

経理の属人化を解消する5つのステップ

ここからが本題です。
経理の属人化は、次の5つのステップで解消していきます。

  1. 担当者に「仕事の一覧」を書き出してもらう
  2. 月間・年間スケジュールに業務を並べて見える化する
  3. 「止まると困る業務」からマニュアルを作る
  4. 月に1回、別の人が代わりにやってみる
  5. 個人のやり方に依存しない仕組みに置き換える

大切なのは順番です。
いきなりマニュアル作成やシステム導入から入ると、全体像がないまま作業だけが増えて挫折します。
必ずステップ1の「書き出し」から始めてみてください。

ステップ1:担当者に「仕事の一覧」を書き出してもらう

最初の一歩は、担当者に経理業務の一覧を書き出してもらうことです。
マニュアルではなく、まず「何の業務があるのか」のリストを作ります。

書き出す項目は次の5つで十分です。

  • 業務名(例:請求書発行、振込、給与計算)
  • 頻度(毎日・毎週・毎月・毎年)
  • 使うツール・ファイル(会計ソフト、Excelのファイル名など)
  • おおよその所要時間
  • 代われる人がいるか(いる・いない)

形式はExcelでも紙でも構いません。
完璧な一覧を目指さないことがコツです。
まず思い出せる範囲で書き出してもらい、抜けは後から追加すれば十分です。

ステップ2:月間・年間スケジュールに業務を並べて見える化する

一覧ができたら、それを月間・年間のカレンダーに並べます。
「毎月10日までに請求書発行」「25日に給与振込」「年末に年末調整」といった形で、いつ何が起きるのかを1枚で見えるようにしましょう。

これで経営者が経理業務の全体量と繁忙期を初めて把握でき、チェックリストで挙げた「経理業務の量や繁忙期を経営者が把握できていない」という状態が解消されます。
このとき、止まると会社に実害が出る業務(支払い・請求・給与)に印を付けておきましょう。
次のステップで使います。

ステップ3:「止まると困る業務」からマニュアルを作る

マニュアルは、印を付けた「止まると困る業務」から作ります。
すべての業務のマニュアル化を最初から目指すと、量が多すぎて必ず挫折するからです。

優先順位の考え方は単純で、止まったときの実害が大きい順です。
一般的には、支払い・請求書発行・給与計算の3つがこれに当たります。

マニュアルの形式にこだわる必要はありません。

  • 操作画面のスクリーンショットを貼ってメモを付ける
  • 作業中の画面を録画して動画で残す
  • 手順を箇条書きにするだけでもよい

「他人が見て、なんとか再現できる」水準で十分です。
完璧主義は、マニュアル化の最大の敵です。

ステップ4:月に1回、別の人が代わりにやってみる

マニュアルは、作っただけでは機能しません。
月に1回、担当者以外の人がマニュアルを見ながら実際に業務をやってみる日を作りましょう。

やってみると、マニュアルに書かれていない暗黙の手順が必ず見つかります。
それを追記していくことで、マニュアルが実際に使えるものに育っていきます。

さらにこの取り組みには、もう1つの効果があります。
別の人が定期的に業務に触れること自体がダブルチェックになり、ミスや不正に気づけないリスクへの対策にもなるのです。

ステップ5:個人のやり方に依存しない仕組みに置き換える

ステップ4まで進むと、業務の中身が見えているので、仕組みへの置き換えを判断できるようになります。

置き換えの例は次のとおりです。

属人化しやすい状態 置き換え先
担当者の自作Excel・マクロ 誰でも使えるクラウド会計ソフト・既製ツール
個人PC・個人フォルダでの保存 会社の共有フォルダ・クラウドストレージ
紙の請求書と手作業の転記 システムからの発行・自動連携

選ぶ基準は1つ、「担当者が代わっても、誰でも使えるか」です。
高機能かどうかより、誰でも使えるかどうかを優先しましょう。

担当者と気まずくならない3つの伝え方

ここまでで、属人化を解消する手順そのものは見えてきたはずです。
ただ、実際に進める前に、もう1つ考えておきたいことがあります。
長年任せてきた担当者に、これをどう切り出すかです。

業務の棚卸しやマニュアル化を急に求めると、担当者は「疑われている」「仕事を取り上げられる」と受け取ることがあります。
替えが効かないことを自分の存在価値と感じている場合、協力を得られずに止まってしまうケースも少なくありません。

次の3つの伝え方を意識してみてください。

「あなたを疑っている」と受け取られない目的の伝え方をする

ポイントは、伝えるときの主語を担当者ではなく会社にすることです。

「あなたのやり方を変えたい」ではなく、「あなたが安心して休めない状態を、会社の責任として解消したい」と伝えます。
属人化の解消は、担当者から仕事を奪う施策ではなく、休暇を取れるようにし、何かあったときに疑われない体制を作る、担当者を守る施策です。
この目的を最初にはっきり伝えることが、協力を得る前提になります。

棚卸しやマニュアル作りを「評価する仕事」として扱う

業務の書き出しやマニュアル作成を、通常業務の合間の「ついで仕事」として頼むのは避けましょう。

ノウハウを文書にして会社に残すことは、それ自体が価値のある仕事です。
業務時間を正式に確保し、できあがった一覧やマニュアルを成果として認めて評価しましょう。
「ノウハウを出したら損をする」と感じさせない扱いが、協力の引き出し方として最も効果的です。

通常業務の負担を減らしてから頼む

ただでさえ忙しい担当者に棚卸しやマニュアル作成を上乗せすれば、反発されるのは当然です。

先に一部の業務を簡素化する、繁忙期を避ける、他の社員が雑務を引き受けるなど、負担を減らす手を先に打ってから依頼しましょう。
順番を間違えないことが、担当者との関係を保つうえで重要です。

どこまで自社でやる?システム・外部サービスを使う判断基準

ステップ1からステップ4の「書き出し・見える化・マニュアル化・代行」は、どの会社でも自社で取り組むべき土台です。
そのうえで、その先をどう進めるかには3つの選択肢があります。

選択肢 向いている会社
自社で標準化まで進める 業務がシンプルで第二の担当者候補がいる
クラウド会計などのシステム導入 手作業・自作Excel・紙の転記が多い
アウトソーシング 後任を採用できない・退職が迫っている

自社の状況に照らして判断してみてください。

自社で標準化まで進めるべきケース

取引先の数が少ない、取引のパターンが決まっているなど、経理業務が比較的シンプルな会社は、自社での標準化だけで十分に属人化を解消できます。

ただし、社内に「第二の担当者」を育てられる人がいることが条件です。
総務や事務の担当者が月1回の代行から始める形なら、追加のコストをかけずに進められます。

クラウド会計などのシステム導入が向くケース

手作業の転記、自作Excel、紙の書類が業務の多くを占めている会社は、クラウド会計ソフトなどのシステム導入が有力な選択肢です。

システムを導入すると、業務の手順がシステムの画面に沿った形に揃うため、システム自体が「共通の手順書」の役割を果たします。
個人の独自のやり方が入り込む余地が減り、属人化しにくい状態を維持できます。

注意点は、担当者を巻き込んで選ぶことです。
経営者が勝手に決めて「明日からこれを使って」と渡すと、先ほどの伝え方の努力が台無しになります。

アウトソーシングを検討すべきケース

担当者の退職が迫っている、後任を採用できない、業務量が1人の限界を超えているという会社は、経理業務の一部を外部に委託するアウトソーシングが有力な選択肢になります。

外部に委託するには業務の内容を伝える必要があるため、委託の過程で手順が自然に文書化されるという副次効果もあります。

委託先を探すときは、いきなり業者を比較するのではなく、取引のある会計事務所や中小企業診断士など、身近な専門家にまず相談してみてください。
自社の状況を知っている相手であれば、どの業務を外部に出すべきかの整理から手伝ってもらえます。

一方で、注意点が2つあります。

  1. すべてを丸投げすると、社内に経理の知見が残らなくなる
  2. 資金繰りの判断など、経営に直結する業務は社外に出せない

「作業は外部へ、判断と把握は社内に」という線引きを意識して使い分けましょう。

まとめ

経理の属人化は、担当者の問題ではなく仕組みの問題です。
だからこそ、仕組みを整えれば必ず解消できます。

この記事のポイントを振り返ります。

  • 経理の属人化とは「代われない」「見えない」状態のこと
  • 放置すると業務停止や不正の見逃しなどのリスクが育ち続ける
  • 原因は担当者ではなく仕組みにある
  • 解消は書き出しから始まる5つのステップで進める
  • 担当者を守る目的を伝え、負担を減らしてから頼む
  • システム導入や外部委託は会社の状況で使い分ける

最初の一歩は、担当者に「仕事の一覧」を書き出してもらうことです。
これなら今週からでも始められます。

属人化は、放置するだけで毎年確実に深刻になっていきます。
担当者が元気に働いてくれている今こそ、着手する最良のタイミングです。
何から手を付けるべきか迷う場合は、業務の整理や仕組み化を支援する外部の専門家に相談してみるのも1つの方法です。